読了「ドナウよ、静かに流れよ」 大崎善生 著
少し前に読んだノンフィクション。
19歳の少女と自称指揮者の精神分裂気味の青年の心中の話だ。二人の日本人が、どんな経緯で日本から遥か遠いウィーンのドナウ川に身を投げるに至ったか、感情に流されず、事実を必死に追いかけ、しかし、少女の遺体が流れ着いたドナウのほとりであふれ出す感情はとうとう抑えることができずに長い旅の終わりを迎える。
あたしは、泣いた。
かわいそうとか、切ないとか、理不尽だとか、言葉はいろいろあるけれど、どれも当てはまらない。
ただ、作者が集めた事実を持ってそこにたどり着いたことで、涙を止めることが出来なかった。いい作品だった。
心中に至った経緯よりも、自分には拭えない疑問が残った。
悠々と流れる初夏のドナウ。そんな穏やかな川で死ぬことが出来るんだろうか…。
物理的に。
頭から離れない。
折りしも、水嵩の増した多摩川のほとりを歩く機会があった。緩やかに流れる鶴見川を幾度か渡る機会があった。
水面を見つめるにつけ、その疑問が頭をもたげる。
こんな静かな流れの中に身を投げたとして、本当に死に至るんだろうか…。
大崎氏の次の作品を読み始めても、読み終えても、川の流れが頭を満たす。