ぎこ記

映画や音楽多め。あとどーでもいいひとりごち

映画「15時17分、パリ行き」テロの話じゃないんだよ~

まぁエモい予告編ですよ。ね。

「誰でもテロに遭遇する可能性がある」って危機感を煽るというかそこに敢然と立ち向かった若者たちの勇気を讃える!!というか。

間違ってはいないんですけどね。

youtu.be

 

間違ってないけどそうじゃないよって思いました。私。これヒューマンドラマ、ある若者のドキュメンタリーじゃんと。

邦題もそうだけど予告編もそうやってキャッチーにしないと確かに「お?」てならない訳なので致し方ないんですけどね、とかいつも愚痴ってるかも(笑)

 

主役を始め、このテロ(未遂)に遭遇した人々がみな本人役で登場しているというのがなかなか面白いというか、クリント・イーストウッドの妙技というか。要するに素人さんが演じているので、実際のところそんなにエモくないんです。

淡々としてリアル。

本作鑑賞前にこの若者3名がクリントと作品について語る動画を観ました。普通の若者とおじいちゃんて感じでした…ほのぼの(笑)

そんなに重要なことは言ってなくて、最後に「この作品で訴えたかったのは?」みたいな質問に「勇気を持って行動することがうんぬんかんぬん」とか言ってるんだけど、映画観て「これはオレも立ち向かうわ!」とか思える人はそんなにいないと思うの。

ていうか、万が一うっかり立ち向かったら相当やばい結果になると思うの…。

だって、ネタバレっちゃうけど3人のうち2人は軍に入隊して厳しい訓練を受けてるし、戦地任務経験者。だからこそ反撃にもひるまず、更には銃弾を受けた乗客を救うことも出来たんだよね。しかもスペンサーが飛び出したとき、テロリストの銃から弾丸は出てないの。なんかごちゃごちゃして何故かは分かんないんだけど、掠ったとかではなくて、弾丸は出なかったのです。え?て思ってる間に肉弾戦になるのです。それもこれも、鍛錬を重ねたスペンサーだからこそ組み伏せることが出来たというくらいやべぇヤツね。 

この映画に突き動かされた完全な平和ボケで貧弱な心身の素人が、有事に飛び出して…てならないことを願ってしまうよ…。

 

boyfoodのものがたり

それよりも何よりも、この事件に辿り着くまでの彼らの生い立ちにものすごく心が揺さぶられるのです。

集中力がない、集団行動が出来ない、勉強が出来ない…そういう学校生活に馴染めない3人は教師から学校から厄介者として扱われるけれど、友情を育み、彼らなりの楽しさを見つけていきます。数々問題は起こしてしまっても見守るシングルマザーたちが頭を抱えながらも我慢強く対応します。そして何より理解し励まし、深い愛情を絶やさない。

本人たちにとっては辛いこともあったろうけど、その姿は微笑ましく映ります。彼らはいつも純粋で、何より前向きなのです。映画の宣伝で「人生に無駄なことは何もない」みたいなのを読んだけど、それは全て「前向きな心」があってのこと。失敗しても、ちゃんとまた前を向く姿勢ってのが「無駄にならない」秘訣。そんな簡単じゃないですわ。でも彼らにはあるんだよね、すっごいナチュラルに彼らの中にはある。

どんな子供時代を過ごしたか、集団生活に馴染めなかった彼らが何をどう学んで行ったか、どうして軍隊に入ったか、どう繋がっていたか、スペンサー・ストーンを軸に描かれています。

とてもとても愛おしい気持ちで観てしまう。それって私がこの若者たちの母親世代だからなの…?(笑)「負けるな、へこたれるな、頑張れ」とかほんとに手に汗を握って見守ってました。

 

sightseeingがめっちゃ楽しい

彼らのヨーロッパ旅行は観ているだけなのに楽しい。それがテロ未遂事件遭遇に繋がってしまうと分かって観てるのに本当に楽しいです。

私は海外旅行を何度かしてるのに、ヨーロッパには行けていなのです。一度イタリアの島やギリシャを回る計画を立てたものの、親戚に不幸が続いてぽしゃったきりになってしまいました。死ぬまでにと思いつつ、猫がいるから長期間を留守にするのはちょっと無理かなぁとか。ぐずぐず言い訳して行動できないのが加齢ってやつなんですよ…(て言い訳をする性格だったりする)。

冒険的な旅行は若さゆえの行動力で楽しめるものだとつくづく思います。20代のバハマ&ニューヨークの時、出発日に台風が関東を直撃してしまい波乱の幕開け、そしてスケジュールも厳しかったのにものっすごく楽しかったのです。予定外のトランジットやホテル滞在など、数々ハードルを越えることが出来たのも若さゆえの体力や度胸もあったんだと思います。

この3人の旅行はその圧倒的な若さと眩しさが弾けてました。若さだけじゃなくて「これぞ欧米人!」みたいなフランクさや大胆さを見せつけられました。私、若かったけどあんなにいろんな人と出逢えないわ(笑)。そりゃ英語が堪能じゃないのは痛いとしても、知らない街の夜は怖かったし、いくら地続きとは言え「オランダ行く?フランスめんどくさくね?やっぱ行く?」みたいな最初から行き当たりばったり計画とか考えられないし、なんていうか普通に臆病でした(笑)。

だから、自由に振る舞い、旅先を躊躇なく楽しむ彼らが名所を回ってくれるのは気持ち良かったです。ああそこ行きたかったんだ、観たかったんだ、おおおう(きらきら)とかなりました。

 

 

terrorist

この映画、テロリストとの対峙シーンはほんの一部です。実際俳優陣だけでなく、これもまたリアルに同じ列車の運行時に2両を貸切にして、同じ駅間の走行中に撮影されたのだそうです。ほかの車両には一般客が乗車していて、撮影には気付いてないのでは?というくらいの時間だったそうです。

それを何テイク繰り返したかは知らないですが、いずれにしても素人ばかりの役者さんたちでその緊迫した限られた時間を作ったことはすごいです。それが映像にも表れていて確かにドキドキはします。

 

 

信仰心

クリント・イーストウッドの名作「グラン・トリノ」。鑑賞はだいぶ前でちょっとうろ覚えなのですが、「グラン・トリノ」にもこの作品にも信仰心を強く感じます。これは自分の中にないものなので余計に感じるのかもしれないです。(まあアメリカ映画の中にはそういったものが流れているのはいくらでもありますけど)

彼らの母親や彼ら自身も、神の導きを常に意識している気がします。門外漢から言うとちょっと”スピリチュアル”っぽい言葉がちょいちょい出て来るのです。

例えば「夢であなたに何かが起こるのを見たわ」、とか「何かに押されている気がする(導かれるままに行動する)」とか。そして事件が解決して手当を受けながらスペンサーの祈りの言葉の様なナレーションが入ります。それは信仰心がなくてもとても素晴らしい祈りで、本当にそうあって欲しい、そうしていこうと思えてしまいます。

「予感がする」ていう表現はかなり陳腐に感じますけど、信仰心から来る「導きを感じる」て言われると太刀打ちできねえな、とかなっちゃいます。信じるってことも人のチカラに他ならないんですけどね。

 

 

 

実話を基に、というかほぼ実話の映画ですが、幼少期については当然子役さんがいい仕事をしているし、そこから始まる「ものがたり」に夢中になれる、いいエンターテインメント映画だと思いました。

ひさしぶりにほっこりしました。「テロ」という言葉にちょっと過敏になっていたので余計に安堵で笑顔がいっぱいになりました。

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