14年くらい一緒に暮らしたねこが旅立った。さよなら。
嘘みたいだけど、さっき「先が見えない」と書いたねこはあれからまもなく、頭を私の手の上に乗せて旅立った。
今、傍らに置いた亡骸は生きてる時のままの肌触りだ。洋猫の血が入っているであろうこのねこの少し長めの毛の肌触りは、この子の自慢。そしてふくよかな身体ももちもちして撫でがいがある。撫でていると、もう命がここから離れていったことが本当に信じがたい。
よく敷物にして昼寝をしていたブランケットで包むように段ボールに入れてるのだけど、ちょっとぎゅうぎゅう感が否めない。
放心状態で泣いていたため、気付いたら死後硬直が始まってしまっていた。慌てて身体を丸め、手足を折って頭を更に丸めるように押し込んだ結果、なんか無理やり自ら入った感じがして、触れる度、振り返る度、目に入って来る度に、亡くなってしまったことが実感として受け入れられず呆然とする。
今朝はそれほど食欲はなさそうだったけどそれはそんなに珍しいことではなく、そしてなんとか口にしたエサもすぐに全部吐いてしまった。それもそんなに珍しくないことで「あ~あ、残念。吐いちゃったね。仕方ないね。残ってる分を気分良くなったら食べてね。」と言って、本当にいつもと同じ様に出勤した。
午後9時近くようやく帰宅した。昼に親戚の訃報を受けて準備するものを捜し歩いて居たため、いつもよりは遅くなってしまった。
確認すると朝の食べ残しが全く変化なし。あらら…。これもやっぱり珍しいことでもないけど、よほど食欲がないんだわ。
だけど。お迎えもないし声も気配もしない。
これは、これはちょっと変だわ…
と、名前を大きな声で呼んだ。何度か呼んだ。
ほどなく返事が聞こえる。いつもなら返事をしながらのっしのっしとねこらしからぬ足音をさせて部屋に登場するのに、異様な鳴き声が聞こえてきた。
そこからだ。
一体何時くらいからこんなにも具合が悪くなったのか、喋らないから分からないけどとにかく物かげ(でも丸見え)でうずくまっていた。
触れる。すごく体温が低い。そして異様な鳴き声を上げる。普段はサイレントミュウが主でほとんどこんな大きな声は出さないのに。
「おかしいよぅ!ぼく変だよぅ!!助けてぇ!!」
必死に訴えてるようだ。
引っ張り出そうとしてもカラダに力が入らない様子。水も全く減っていないので慌てて小皿に水を汲んで口元にもっていくと、ほんの少し飲んだ。
これはもう尋常じゃない、自分じゃどうにもならないと判断。
親戚の葬式関連の電話も同時進行で進めた。叔母に電話をする。「今、14年連れ添ったねこの調子がおかしいので何とも言えない」。
訳あって両親には事後報告となる。
インターネットで近くの救急可能な病院を探し出す。20分ほどで担ぎ込み、これまでの病歴や検査結果、そして帰宅からの状態を早口で伝えた。とりあえず血液検査とレントゲン。
待合室で待つ間、母へのLINEに、親戚の葬儀よりねこを優先したい旨つらつらと打つ。母はもう寝てしまっているだろうから、朝起きるなりこの娘の「は?人間としてお前?!」という告白メッセージを長々と読むだろう。
どのくらい経ったのか、呼ばれて診察室へ入り告げられた診断。
圧倒的にその名称だけで敗北感のある結果だった。覚悟はしていたけど、想像を超える病気だった。
点滴をしていただき一晩様子を見て、今後のことなどしっかり考えて再来院すると話をして帰宅したのは11時前くらいだったと思う。
救急診察する際と結果はシンプルに連絡していた猫飼い同僚に、明日遅刻する旨をメール。
猫飼いで親しくしている知人にはLINEなどで簡単に報告。
誰かと話している間は冷静に考えられる気がしていた。後は何をすれば…変に昂ぶって冴えているのに思考能力は全く働かずに何も決められない頭。まずシャワーを浴びてすっきりしなければ。これからに備えて心をしっかり持たねばと、そしてブログを1本あっという間に書いた。
キャリーからどうにか自力で出て来たねこは、すぐに暗がりでへたりこんだ。痛みによるショックだったようだが、点滴で少し和らいだのか鳴き叫びは治まった。
しかし這うようにクローゼットに入りたがり、自力で登れずもがいたので、お尻を支えて押し込んでやる。そこに丸まったきり、出てこなくなった。具合が悪いことには変わりがないらしい。
自分の部屋にねこがいないだけでこれほど寂しいのかと耐えかねていると、動きだしたような物音とまた鳴き声。見に行くと床にへたり込んでまたもがいていた。
これはもしかして今夜もたないのではと心によぎる。
ずっと覚悟してきた時が来ているのだろうと冷静に判断している自分。しかし、苦し気に喘ぐねこをどう扱えばいいものか…。
30分。また30分。なんて緩慢な苦しみなんだろうか。酷い悪化が見られないのだけどじっくりとダメージが侵食していることは分かる。目を見開き撫でても声を掛けても反応がない。必死に浅い呼吸を繰り返すだけだ。
分かった。君たちが全然死を覚悟しない生き物だということが本当によく分かったよ。
深夜2時半過ぎ。やっと苦しみが去った。
最後に大好きなお刺身を食べられなくて残念だったね。
なんだか、病院から戻ってからは怒ってるみたいに私と目を合わせてくれなかったね。撫でても声をかけても目を合わせてくれず、ゴロゴロも聞かせてくれなかったね。
最後に大嫌いな病院へ連れて行かれたこと、これからも連れて行こうとしてることへの断固たる抗議だったのかな。
君が苦しそうに喘ぐ中、私は「ありがとう」ばかり言っていたでしょう?身体に耳をつけて呼吸や心音を聞きたかったんだけど、全然聞き取れなかった。呼吸は浅過ぎたし、心音は弱すぎたんだね。声を掛けて頬ずりをして撫でていたけど、しっぽぴこぴこもできなかったのも苦しかったからだよね。
一体どの時点で私の声も手も分からなくなってたのかな。
何時からあんなにつらかったのか、もう何から何まで、何にも分からなかった。
ひとりぼっちで辛く心細かったろうね。それを大嫌いな病院に連れて行くなんて、何にも分からずごめん。ごめんだよ。本当にごめんだよ。ずっとずっと待っててくれて、看取らせてくれるなんて、君はサイコーだった。本当にサイコーだったよ。
小豆の肉球、大好きだった。
Pawのグレージュの魅力に気付くの遅くてごめんよ。