野生のいのちと対峙する (2) シマリスを迎えたとき
前回「続きます」と締めたまま諦めていたけど、再度トライしてみることにした。
今、人生で初めて猫と暮らしている。多分13歳くらいだろうかと思う。
野良猫を保護し里親を探すサイトで出会った。迎えるまでに入院したりしたけれど、だいたい生後4ヶ月くらいと言われた気がする。
私はあまり共に暮らす動物の誕生日を覚えていたりしない。その時たまたま出逢ってするりと自分の生活の中に入ってきてる、そんな感じで迎えて来たし、するりと私の元から消えていった。
猫を迎える前にはシマリスを飼っていた。
これは2匹のシマリスの飼育を通して感じた「野生のいのち」との関わりの話になる。
「シマリスって飼えるの?」という疑問をお持ちなら是非読んでいただけたら嬉しい。
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「リス売ってたよ?飼えば?」
家人が、ケージに仔リスがぎゅうぎゅうに詰め込まれてペットショップの前の道に出されていたことを教えてくれた。
その時も「え?リス?飼ってみたい!」なんつって気付くと迎えていた。シマリスについて何も知らなかったけれど、これまでたくさんの小動物と楽しく暮らして来たし、安易な気持ちだった。
そのシマリスはちっともなついてくれなかった。
言うことも聞いてくれない。理解してくれてるかも分からない。機嫌が悪いとすごく怖い顔で噛みつきに来た。
思い出すと私自身、苦労しつつも楽しいつもりで実は恐ろしい扱いをしていて、今でも胃が冷え冷えと縮む気がする…
3年経った3月の朝、ケージの中で冷たくなっていた。冬眠明けから幾日も経っていなかった。
自己流で飼育を始めてしまった私の過ちだ。あまりにあっけない別れに悲しくて悲しくて申し訳なくて…私がした小さなことひとつひとつ、何もかもが、この子には意地悪であっただろう、何も分からぬまま死なせてしまった。
何よりも私自身が命を脅かしたのだろうと、そして本当に命を奪ったのだと後から思い知ることになる。
それからひと月ほど後、偶然にすぐに別の個体と出会った。春は仔リスが流通する季節、個体も小さくて不安が大きかった。
小さな小鳥屋さんのケージの前でちょろちょろと動き回る仔リスに話しかけながら悶々と悩んでいた私を、何も言わずに見ていてくれたご主人。
思い切って話をしてみた。
「この寒さはこの仔リスにはとても不安で、自分には今は迎える自信もない。でもGW明けにもしもまだどちらかでも残っていたら是非…」
「そうだねぇ、今は気候も不安定だしね。いいよ。」
そして5月。陽気も安定し自転車に乗って、仔リスのもとへ走った。
2匹は少しだけ大きくなっていて、ケージに指を近づけても怖がらず、興味深そうな顔で積極的に鼻をくっつけてきた方の仔を迎えた。とてもおっとりとしている男の子だった。
その子に出逢ってから迎えるまでの間、本当に悩んだ。
自分にまたシマリスを飼う資格があるのか。また慣れてくれない個体だったら同じことにならないか。これまでの経験から我流で飼った自分のどこに具体的な間違いがあったのか…
その頃、シマリスに特化した飼育書はなかったと思う。げっ歯類、主にハムスターやウサギの飼育書にほんの少し掲載があるのみ。それも「エサはこんな感じ、ケージはこれくらい」という大雑把で不確かな内容だった。
辿り着いた「メーリングリスト」という初期のSNS、すぐにシマリス飼いのそれに入った。
実際に飼育されている方のお話から、自分の誤った飼育方法をひとつひとつ事細かに再確認できた。経験談が最も確実な情報源だった。
そうしたらひと月などあっという間。それでも私はもう仔リスを迎える覚悟をしていた。まだ足りないけど、どんどん質問して勉強しながら頑張ろう、前の子の命に報いるためにも。
…いやこれはちょっと盛ってる(笑)
とにかくまたあの子に会いたくて、どうかまだ売れていませんようにと走った。
簡単に列挙する。
・個体差によって個性があり、懐くか懐かないかは分からない。
・運動量の多いシマリスに小さなケージはNG。
・売られているケージによく付属しているプラスチックの小さな回し車での事故が多い。
・とても賢く脱走の危険性は大きい。
・脱走しても見知らぬ場所では一気に遠くまで走っていくわけではない。(野生化ではテリトリーがある)
・日本に野生のシマリスは北海道以外生息していない(即ち生息地以外での脱走放置は生態系への影響がある)。
・売られているのは中国や朝鮮半島で、産まれたばかりのタイミングで巣から盗み出された仔リスであり、大量に船で運ばれて来ている種である。その過程で多くの命が失われている。
・勇猛果敢であり、臆病でもある。
・部屋の中での散歩の危険性は想定内から想定外まで様々であること(後に経験談から家の中の危険spotがまとめられた)。
そして何より
・季節によって生態そのものが大きく変化する個体が多い。
この点に触れている書を見たことがなかった。
<メンバーの中に動物関連のライターさんがいらして、多分日本では初めてとなろうシマリス専門の飼育本が発行された時は、皆歓喜した。
ただそれを喜ぶ人たちはひと通り情報交換しながらそういったことは知識として持っていた訳だけれど。>
冬前になると縄張りとエサの確保だけにエネルギーが費やされ、人間はその縄張りを侵す敵と見なされた。
ケージに近づくだけで怒り狂い、出せば襲い掛かってきた。噛みつく力は流血では済まない、内出血を起こしていつまでも痛みが引かない威力だ。
その表情は怒りに満ち、防御しても隙をついて繰り返して攻撃し、完全に殺す勢いで飛びかかってきていることが分かる。
(ご存知の方は「進撃の巨人」でリヴァイ兵長に立体機動で襲われるところを想像してください。まずは顔を狙ってきます。早いです。壁を蹴って来ます。立体機動そのものです)
小さな動物があれほど獰猛になるものかと戦慄する。
だから冬モードになった日の落胆は大きかったし、毎日毎日本当に悲しくて辛くてやりきれなかった。愛情が報われないとか伝わらないだけでなく、殺意を抱かれるという気持ちをどう処理すれば良いのか本当に途方に暮れた。
幼いころから小さな動物と暮らしてきて、懐かない個体ももちろんいたけれど、それでもみんなかわいかったし大好きだったし、眺めているだけでしあわせな気持ちになった。たとえ懐かなくても殺す勢いで攻撃をして来る動物とは出逢ったことがなかった。
その日は突然訪れる。
朝「おはよう」と声をかけて顔をみた瞬間に分かる。
「ぁ!」冬モードの終了を知る日だ。見つめる表情で分かるのだ。冬も春もパッと見には同じ愛くるしいシマリスであっても。
敵意は嘘のように消失し、甘えてくるようになる。私によじ登って遊んだり、手や小さなぬいぐるみで転げるようにじゃれた。私が部屋を出ようとすると追いかけてきた。
今風に言えば「ツンデレ」?そんな生易しいものではないですよ(笑)
「命懸けで殺しに来るツン」(笑)
毎日世話をしている身としては、この両極端の変化をどう受け止めていけばよいのかと悩んだ。この先上手く飼育できて5年か10年か…?
(シマリスの飼育下の寿命は正式な統計をされておらず、野生においても詳細は不明なのである。…今はちょっと情報を追っていないけど)
基本的に森の中をエサを探して駆け回り、確保したエサは命に直結するものであり、その領分を人間は侵してはならないことを念頭に置く。
やることは同じだけど、気持ちをいつもそこに置いておけばどんなに敵意を示されてももう、悲しく辛く思うことはないのだ。
(シマリスのお話、続きます、多分)