ぎこ記

映画や音楽多め。あとどーでもいいひとりごち

映画「サバービコン」~すごい不快なのにどんどん観ちゃう

そうか、これがコーエン兄弟だった。

奇妙で不可解で不愉快、何もかもが吐き気をもよおすほどに酷い。なのに淡々と進んでいく物語を見逃さぬようスクリーンから目を離さない。
胸騒ぎしかしなくて、悪いことが起こると察しててドキドキするのに、それを見届けたくてたまらない気持ちになる。自分の中に「悪趣味」を見つけている絶望感。いやそれより罪深い、悪い意味での群集心理に感化される下世話な性分、いわゆる「野次馬根性」?
映画だから!完全傍観者だから!どうせ自分とは関係ないんだし!これは見届けたい言い訳をいつのまにかしてた。悪意に揉みくちゃにされて、自分の心まで巻き込まれてることにホントは気付いているのだ。

目をそらしているものを見せつけられているようで、非常にものすごく実に胸が悪くなる。何もかもが。

もう考えられる限りの不快感を言葉にしてみたんだけど、実はまた別の奇妙なことがある。

人のエゴや差別意識の嵐が猛威を振るう中に、忽然と穏やかなカプセルに包まれた空間も存在しているのだ。それが隣人同士の少年2人のキャッチボールだ。文字通り野球ボールから、寝る前にふとベッドから視線を送る隣家の窓の灯り、手作りの糸電話、小さなかわいらしいヘビの交換、そのエサである虫集め…。
あの世界が同じ時空に存在してるとは到底思えないほど違和感がある。
どちらかが偽物なのでは?どちらも夢なのでは…?そういう違和感に最初から最後まで包まれていた。

 

とりあえず先入観を完全に無視してくる。

多分予告編を観てほとんどの人が「平和な街に黒人が引っ越してきて…」という入口でありきたりな物語を想像をしてしまう。想像するなと言っても無理だと思う。もちろん人種問題の嫌な部分も織り込み済みだし、それだけでも想像を超えた描写だ。斜め上ではなく裏側の全然違う胸糞悪い話が進行していく戸惑いを堪能するしかない。

 

この物語の終焉を目前にして父親のおぞましい言葉を聞く少年の表情が素晴らしい。私はそれまでのあまりに非現実すぎる物語に直面して涙腺バカも発動しなかった。しかしその少年の演技に釘付けになって、一瞬鼻の奥に涙が広がった。震える唇と透明な瞳から透明な頬に溢れ落ちる透明の涙の粒。本当に天使のようだった。美しく強く悲しい。この世のものと思えない。

いやそれまでもこの世の出来事とは思えないことばかりなんだけど。

 

そして最後はまた塀を挟んだキャッチボールだ。

何も終わらない。

サバービコン?

なんなんだあのサバービコンて。なんなんだあの世界。

もしかして現実の世界そのものなのか。悪夢のような現実なのか。

 

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